小説を書いたんやで。【桝本コージ】









『コメント出来ない設定にしてるんですか?』





冬も本格的な顔を見せ始め風が強く吹く夜、オーダーで入ったオムそばを電子レンジで温めながら僕はそう聞かれた。『え?うん。』事務所は違うがバイト先が同じ後輩にそう答えた。

完全にウソだ。本当はそんな設定にはしていない。そんな設定があるかどうかすら知らない。そしてもし同じ事務所の後輩にならウソなどつかずに答えたかもしれないが、違う事務所でバイト先でしか絡む事は無かったので思わずカッコ付ける自分が出て来てしまったのだ。

芸人とは人気商売である。twitterで何かを呟いたり画像を載せればその人気に比例してリツイートされたりお気に入りとして保存される。みんなその数を競う様に面白い事を呟いたり、キメ顔の自撮りを乗せる。もちろん僕もその1人だ。そしてこの後輩はそんな事を聞いてくるって事は僕のブログを【たまに読んでいる程度】なのだろう。もし毎日読んでいたりtwitterなどをチェックしたらそんな質問はして来ない。だからこそ僕は瞬間的に騙せると思いウソをついてしまったのだ。

バイトは通常とは違った人気イベントが開催されていて普段はお客さんもあまり入らないがこのイベントでは沢山お客さんも入るのでバイトの人数も多い。なのであまり普段一緒には入らないこの後輩と入る事になっていた。しかしそのイベントも最終日で、営業時間も終わりに差し掛かっていたためさすがに落ち着いて来ていたが『え?うん。』と言うウソをかき消す様に僕はバタバタしてみせた。先輩のその様子を見たからか後輩も同じ様に体を動かした。しかしそれも長くは続かずまた喋る時間が出来てしまい後輩は意識をブログに戻しそして見つけてしまった。





『あ、1件だけ有りますよ。て事はコメント出来るけど全然来てないんですね。』








誰かが言った。『0と1。1と2。その差は同じだが、0から1を生み出すのは1を2にするのとは永遠にも等しい差がある』と。つまり1を作るのは素晴らしい事だと。だが今回その1を生み出さず0のままだったらこんな事にはならなかったのかもしれない。そして2だったらまた違った結果になったかもしれない。しかしそんな事を考えてもそれこそ永遠に答えは出ない。僕は無言のままオムそばにソースとマヨネーズをかけた。







桝本コージ(桝本浩二)
1978年桝本家の次男として生まれ、大阪で芸人として芸能活動を始め、現在は相方の難波と共にキャラバンとして都内を中心に活動中。

キャラバン's Ownd

グレープカンパニー所属のお笑いコンビ キャラバンのホームページ

1コメント

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  • @かりん

    2017.12.28 15:00

    コメント1の重み。。。